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「教員不足」の異常さに慣れてはいけない

【第12回】学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■足りない教員の定数は誰が決めた

 教員についても、非常勤に頼る傾向が強まるばかりだ。一説によると、「4人に1人が非常勤」といわれる状態にまでなっているらしい。非正規教員が増えているのは、教育の人件費を抑えるためである。

 義務教育における教員の給与は、3分の1を国が、残りを自治体が負担している。かつては国の負担は2分の1だったが、自治体の負担が増やされた。それでも国が負担しているだけマシだ、と早合点してはいけない。
 国は、無制限な教員の数に対して負担しているわけではない。教員の数については、国が決める「定数」というものがある。つまり国は、定数分の給料の3分の1だけを負担しているのだ。
 国が決める定数ならば、その人数で学校の業務は事足りなければならない。それが前提で決められるのが「定数」の常識だろう。
 しかし、未配置の問題が起きている。それは、そもそも定数の算出が間違っていることにほかならない。国が決める定数が間違っているから、学校現場で教員の数が足りないということになってしまっているのだ。

 それにもかかわらず、先ほどの『朝日新聞』の記事は、未配置は「非常勤の使い方」に問題があるというのだ。そもそも定数で間に合うのなら、非常勤もふくめて非正規を雇う必要もない。非常勤が増えるといった事態も、起こるはずがないのだ。
 つまり、現場で人手不足が起きている原因は「定数」そのものが間に合っていない証拠でしかない。もちろん、そのことは国も承知しているようで、それを補うためのトリックを導入している。
 

■「総量裁量制」が現場を荒廃させる

 そのトリックが、「総量裁量制」である。国としては定数分の3分の1の予算を地方に渡すが、その使い方は「裁量次第」という仕組みだ。
 たとえば、定数として数えられる正規教員1人の収入を便宜的に年間600万円だとすると、その3分の1である200万円が国から自治体にわたる。本来であれば、自治体は400万円を負担して正規教員1人を雇わなくてはならない。

 それが総量裁量制では、国からの200万円を教員1人分として使う必要がない。300万円で1人を雇い、国からの200万円から100万円を出せば、自治体の負担も200万円で済む。もともと1人分として使わなければならない国からの200万円、自治体負担分400万円を使えば、それで2人を雇うことができる。
 定数を守っていれば1人しか配置できないが、これなら2人を配置できることになるのだ。定数が必要な人数を満たしていなくても、この方式なら満たす可能性が高くなる。足りない定数を示しながら、その予算枠のなかで必要人数を補おうとする、まさにトリックでしかない。

 ただし本来の半分の賃金しか払わないのでは、正規の教員が納得するはずがない。そこで、非正規教員を採用するわけだ。正規社員の給料では必要人員を確保できないので、パートやアルバイトといった低賃金労働者で補うのと同じである。

「未配置が起きるのは非常勤講師を活用していないからだ」というのは、総量裁量制をフル活用して、非正規教員のなかでも低賃金の非常勤講師を多く雇っていないからだ、と言っていることになる。
 経営的な観点でいえば正しいのかもしれないが、問題は、資格のいらないコンビニでも低賃金では人が集まらないご時世に、そんな低賃金で働く教員免許取得者が都合よくいるかどうか、である。

 低賃金、つまり限られた報酬であれば、それだけ要求できる仕事量も責任も狭まったものにならなければならない。ところが、学校現場では非正規教員についても、正規教員と同じくらいの仕事量と責任が求められているのが現実だ。

 その問題を放置しておいて、「未配置が増えているから非正規を増やせ」しかも「なかでも低賃金の非常勤講師を増やせ」というのは、学校現場を荒廃させることにしかならない。
 子どもたちが学ぶ場にふさわしい学校環境を整えるためには、教員の働き方とともに、採用の在り方も問い直さなければならない状況にある。
 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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